ご挨拶
ポストコロナに乗り遅れるな
変わる大学メンタルヘルス
マスク姿もディスタンスもすっかり日常になりました。在宅勤務やオンライン会議が普及し、かつては黙認していた通勤ラッシュの混雑した車内が耐え難い苦痛に感じられます。コロナがもたらした変化は、私たちの生活の多岐に及びます。中でも大学は特に大きな影響を受けました。主に地域で行われる初等教育と異なり、その枠を超えて移動し交流する大学生は、ウイルスの運び手とみなされ、感染拡大のフェーズでは世界中の多くの大学キャンパスが閉鎖されました。多くのサービスがオンラインにシフトする中、大学の講義も急速にオンライン化され、感染がコントロールされつつある今も、多くの大学でオンライン講義は日常化しています。この変化に翻弄された学生や教員は多いと思いますが、一方で講義のオンライン化は、移動の負担を大きく軽減してくれました。海外渡航が容易でない状況下、自国に居ながら海外の大学に留学することさえ可能です。このオンライン化の流れは我々の生活に根付き、新たな変化を引き起こしていくでしょう。私たち大学メンタルヘルスの支援者も、この流れと無縁ではいられません。今回、本会を完全オンライン開催とすることを早々に決定した理由の一つは、この新しい流れに私たちが適応する意思を表明すべきと考えたからでもあります。
全国の同胞と直接会える機会がないのは残念ですが、大きな入れ物が不要な分、内容に力を入れることができました。大学における保健管理センターの課題が、疾病の早期発見から一次予防へ、さらにはウェル・ビーイングの実現支援へと多様化する中、東京医科歯科大学大学院精神行動医科学分野の髙橋先生に「行動科学とポジティブサイコロジーの脳科学」についてご講演いただきます。また犯罪精神医学の岡田先生にはキャンパスにおける犯罪被害の問題を、ハームリダクション研究の専門家である高野先生には大学におけるアルコール問題について、新しい視点でのアプローチを教えて頂けるでしょう。発達障害支援で名高い臨床心理士の高山先生には具体的な実践から導き出された対応について、柏先生からは発達障害学生の治療や日々の取り組みについて医師の視点からお話をいただきます。いずれも、私たち支援者がキャンパスで遭遇する困難な場面に役立つ、聞き逃せないテーマとなっています。
また本年度も、多くの一般研究発表演題の発表申込をいただきました。口頭演題発表の時間を多くは取れませんでしたが、全ての発表演題についてオンラインでディスカッションができる質疑応答のためのスペースを用意いたしました。またこの機能を利用して、開催前から「バーチャル・シンポジウム」と銘打ったイベントも開催しています。ここでは、参加者誰もがシンポジストであり、コロナが大学メンタルヘルスに何をもたらしたのかについて、自由に討論できる場所となっています。
ポスター発表についても、従来の模造紙に書かれたポスターは不要です。PDFファイルであれば形式は自由。動画やテキストファイルを掲示することもできます。動画によるスライドプレゼンテーションも可能ですので、プレゼンテーション動画や文書を質疑応答スペースに掲示し、討論のきっかけにしてください。会期は2日間ですが、閉会後約2週間はコンテンツをオンデマンド配信いたしますので、総会での体験をじっくり復習することもできます。
ワクチンによる集団免疫に疑問符が付きましたので、収束はまだ先かもしれません。あるいはこの先コロナとともに生きる未来もあり得ます。それでもいつか人類は新型コロナの脅威を忘れて暮らす日々を迎えます。スペイン風邪がそうであったように。この流れの中で学生に変わらぬ支援を提供できるよう、大学メンタルヘルスがどう変わるのか一緒に考えてみませんか。そして私たち自身もまたどう変わっていくべきなのか、その変化のきっかけとなるような総会にしたいと考えています。
第43回全国大学メンタルヘルス学会総会長
東京医科歯科大学 学生支援・保健管理機構 保健管理センター
平井伸英